感想&重枝氏インタビュー
さる9月21日、古賀政男音楽博物館けやきホールでSolo Guitar Competitionの本選が行われました。2年目となる今大会はGuitar Makers Japan も協賛に加わり、GMJからは私と黒澤さんが伺いました。
当日の様子を黒澤さんが記事で詳細にレポートされていますので是非そちらも合わせてお読みください。午後1時半から8時半までの長丁場でしたが、競演者と審査員は素晴らしい大会を繰り広げてくれました。一観客として私はリラックスした雰囲気の中で時折走る緊張感や、それぞれの音楽表現に引き込まれ、終始楽しくソロギターの魅力を存分に味わうことができました。
自分のようなギター製作者としては、表現の道具としてギターが持つ選択肢の幅広さゆえ、マイク一本で伝わってくる音の個性が際立って、楽器の音色も大会に彩りを添えるのだなあと改めてギターの奥深さに感心しました。ボディーの形状からくる出音の違いから弦長を想像してみたり、ブランド別の個性や現代的な音と馴染みのある音の違いなど、なぜこのギターを選んだのか、どんな音楽を聴いてきたのだろうかなど、色々な考えが頭の中を巡りました。
審査員の伊藤賢一さんが、授賞式でそれぞれのギタリストの荒削りな部分や凸凹感を大切にして欲しいというようなことを仰ってましたが、まさにそれがソロギターの醍醐味なのかもしれません。
授賞式後に第一回目の優勝者、伊藤光希さんの演奏は若さもありながらどこか余裕を感じました。また、審査員の小川倫生さんが最後に演奏されたスターゲイザーは、北極星を頼りに航海していた船乗りを思い浮かべた曲だそうで、色々な価値観が錯綜する現代をギター一本抱えて大海に出るこれからのギタリストたちにエールを贈るようでした。
さて、大会について主催者の重枝さんにインタビューさせていただきました。来年以降も継続するということで大変嬉しいですね。最後に、優勝者の坂本佳祐さんはじめ受賞者の方々おめでとうございました。また審査員、出場者、スタッフの方々、素晴らしい大会をありがとうございました。Solo Guitar Competionの益々の発展を祈念しております。
(1)今年で2回目になりますが、Solo Guitar Competionを始められたきっかけはなんですか。
押尾コータローさんがメジャーデビューし、10数年前くらいからその影響を受けて活躍するギタリストが増えてきました。しかし、その次の世代、今の20代の台頭が非常に少ないと感じています。2001年からフィンガーピッキングデイというコンクールが続いてますが、ソロギターの大きなコンクールといえばこのくらいです。ソロギターの活性化のためにはクラシックギターのようにいくつもコンクールがあってもよいと思い、
始めました。
(2)Acoustic Guitar World というウェブサイトを長年主催されていて、ソロギターを中心にライブイベントなどを企画されてきたと存じますが、何故ソロギターに注目してきたのか、ソロギターへの思い入れを教えてください?
アコースティックギター1本あれば、それだけで一人で楽しめるのがソロギターです。ソロギターを弾かれてる方は感じてると思いますが、演奏するのはとても難しく、挫折してしまったり1曲覚えるのに時間がかかったりします。そんなソロギターを生業とするギタリストが増えてきましたが、一般的な認知はまだ低いです。プロとして活動するためにどれだけ努力したのかがわかるので、ソロギタリストがもっと注目され、その音楽が広まってほしいと思いAcoustic Guitar Worldを始めました。
(3)クラシックギターに対して、ポピュラー音楽や自由で独創的な音楽をインストで表現するソロギターはジャンルとして定着してきたと思います。応募条件にフラットピックは不可、サムピックは可とありましたが、フィンガースタイルに軸に据えたコンペティションとして理解してよろしいでしょうか?ソロギターとフィンガースタイルギターの関係性について教えてください。
Solo Guitar Competition はフィンガースタイルに特化したコンペティションとなります。フラットピックを使いながら中指、薬指を使って演奏するスタイルもありますが、やはりフラットピックはストローク、単音弾きが主体なので別物と考えています。ソロギターのコンクールといえばアメリカのWalnut Valley FestivalのInternational Finger Style Guitar Championship が元祖かと思いますが、ここでもフラットピックの場合はFlat Pick Championshipが別部門になってますね。
(4)ソロギターはナイロン弦でも演奏は可能だと思いますが、今回のコンペティションはスティール弦アコースティックギター奏者が中心だったと思います。どのようなギターを使用できるかの規定などはありますか?
スティール弦、ナイロン弦どちらの使用も可能です。今年はナイロン弦の出場者はいなかったですが、音源審査ではナイロン弦もあり、去年のカヴァー部門は優勝、準優勝者がナイロン弦でした。最近はソロギターでもナイロン弦を使用するギタリストが増えていることもあり、ソロギターファンもナイロン弦を使用する方が増えていると思います。スティール弦とナイロン弦は似て非なるものだとは思いますが、どちらも良さがあるので今後もどちらを使用しても問題ありません。
(5)本選ではマイク一本だけの演奏で、出場者の緊張感が伝わってきました。ほぼ生演奏に拘った理由を教えてください。(今回使用したマイクを教えてください)
ラインよりマイクの方が出場者の演奏能力、表現力などがダイレクトに出ると思っています。エフェクター等の使用で自分の世界を表現する、という方がライブでは基本かとは思いますが、まずは機材を使用しないスタイルでの評価をした方がよいと考えています。マイクは会場用意のAKGです。去年は伊藤賢一さんにゼンハイザーのマイクをお借りし、今年もそれを使用する予定でしたが会場でAKGのマイクがセットされており、伊藤さんもそれを見てこのAKGの方がよいと思う、ということでそのまま使用しました。
(6)プロフェッショナル部門とカバー部門に分けられた理由は教えてください?
プロフェッショナル部門はオリジナル曲、オリジナルアレンジ曲1曲ずつで、フィンガーピッキングデイと同じ内容です。プロ志向の方や、オリジナル曲を作る方はこれまでもフィンガーピッキングデイにチャレンジしていると思います。しかし、オリジナル曲がない、アレンジも自分ではやらない、という方のが圧倒的に多いと思います。オープンマイクなど演奏を披露する機会はありますが、コンクールのようなものはこういった方にはこれまでなく、それでいて演奏能力が高い方が増えています。オリジナル曲がなくてもこのような場で演奏する機会を求める方は多いのではと思い実施し、予想以上に皆様素晴らしい演奏を披露してくれたと思います。
(7)Solo Guitar Competionを来年も開催されると聞いて嬉しい限りですが、コンペに関して、あるいはソロギターというジャンルに関して将来的に思い描いているビジョンなどはありますか。
まずはソロギターの裾野が広がって欲しいと思っています。そして、若いギタリストの活躍を期待しています。2023年に優勝した伊藤光希さんはアルバムリリースやソロライブを行うなど、優勝後に活動の幅を広げています。今はギタリストへの専念だけでなく、他の仕事をしながら演奏活動をするものよいと思います。ツアーができなくてもさまざまな配信があり、多くの音楽表現の手法があります。あと、中国、韓国では若く素晴らしいギタリストが増えてきて、フィンガーピッキングデイでは優勝者も出ておりSGCでもエントリーされて好成績を残しています。日本では若いギタリストがなかなか増えないですが、両国の若いギタリストたちとコンペティションを通じてふれあい、刺激になればよいと思っています。